秋冬野菜、最後の苗作り。
ハウスの中の苗にかん水する。実に1時間。
この作業をどうやって効率化していくかという考え方と、
そもそもこの作業をやることが経営上正しいかどうか、という考え方の間で
しばし悩む。
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1:ハウスの中の水やりの効率化に関して
有機農業をやっている多くの農家は多品目の野菜を少量ずつ栽培していて、
おもに春と秋に育苗の作業をする。
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・ハウスの中で育苗(春は約4か月、秋は約3か月)
・毎日2回程度かん水。
・おもに手作業。
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ざっと毎日平均1.5時間かかったとして、
1.5hr×200日×@1000円=30万円
諸経費もろもろ@1000円で人を雇ったとしても、
育苗の水やりだけで、30万円かかっている。
この秋だけでも、9万円の人件費。
これに、種代、育苗用の土を作る時間の人件費、資材代(ポット、防虫ネットなど)、減価償却としてビニールハウス、井戸など、別途かかる。
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秋の苗の品目は、キャベツ、ブロッコリー、白菜、リーフレタスなど(玉ねぎは除く。)
無農薬だと、育苗期間中、コオロギやらねずみやら、蛾の幼虫各種やらにどうしてもやられてしまう。
今秋、実際に畑に植わった苗がいまだ1万本に満たないことに愕然とする。
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種代がざっと3万弱、ポットに種をまく人件費が5万くらい、その他もろもろ入れて、20万弱かかっている。
1ポット20円。
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効率化できそうな部分としては、水やりの自動化。
こちらは現状では残念ながらずいぶん金がかかる。
うちの畑に掘った井戸は、浅井戸(5mほど)のため、日量2000リッターくらいしか使えない。
スプリンクラーはおろか、かん水チューブも使えない。
岩盤がでてしまって、大型バックホーでもこれ以上ほれなかったのだ。
深井戸の見積もりを取ったことがあるが、200mくらい掘ってうまく水がでれば、
200~300万位だそうだ。時々出かけては参考にさせていただいている先輩農家のところでは600万かかったそうだ。
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問題は、それだけの投資をして、井戸をどれだけの用途に、年間どれだけ使い、
何年で回収するか?金利を考慮しないで20年で回収して、
ようやく自動化した人件費と引き合う。
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別の視点から考えれば、現状の経営内容で育苗の水やり自動化だけのために
井戸に投資したところで、回収はおぼつかないということだ。
しかも畑は借地。3~5年契約・・・。
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育苗に関して大きく効率化できそうな課題の、もうひとつは育苗用の土作り。
山に入って腐葉土を採取してきて、畑の土と混ぜて使う。
これをベースに、各種ミネラル(牡蠣がら、天然マグネシウム資材など)や
バーミキュライト、ピートモスなど、適宜配合する。
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経費のほとんどは人件費。とにかく手間がかかる。
一時期、購入した育苗用土で苗を作ったことがあるが、
どうも納得しない。
まず有機適合用土が少なく、高価である。
また、購入した用土を使うと、地上部はしっかり育っているように見えて、
根の張りが不十分ということがほとんどだった。
(いまだいい資材に当たらない。)
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有機農業の本によれば、
踏み床温床を作って、その温床の有機物を3年ほど寝かして、
育苗用の土にすると書いてあるが、手間がかかるわりに
品質のばらつきが多く、これはすごい!と感嘆する苗を作っている
生産者に出会うことはめったにない。
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苗半作といって、いい苗をつくることが生産活動においてもっとも重要と
言われながらも、どの農家も実際には結構苦労しているところだと思う。
当然、うちも毎年改善している。
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さて、誰でも気がつきそうな所で改善の検討をしてみたが、
おそらく一番経費削減できるのが、経営者の頭の付け替え、
次いで、スタッフの成長。
要は、経営者がバカだっていうことだ。やれやれ。
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さてどういうことか順に検討する。
お客様の数から、品目ごとに必要とされるだろう数量をはじき出して、
発芽率、廃棄苗率、畑に定植後のダメになる率、A品率の余分をもって育苗する。実に1000個のキャベツをつくるのに、4000粒の種をまくなんてことはざらだ。
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問題の多くは、『人』に関することでおこっている。
余分×ロス×人まかせ×まあいいだろう精神×販売の無駄=大赤字。
お客様に満足していただいてお金を払っていただくというゴールに至るまでに、
掛け算で経費が失われていく。
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■ざっくり種はこのくらい必要だろう→大幅な欠損→再注文→2重送料もしくは手間→注文しすぎの無駄
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■なんとなく虫にやられ始めたな→まあいっか、仕方ない、誰かやるだろう→廃棄苗率の増加→時期を逸してしまう→畑の計画の変更
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■かん水時間がかかる→1時間以上かん水作業→暑い、単調だ→均一に水がかからない→ロスの増加、生育のばらつき→定植作業が一度にできない→出荷数が足りない、時期がずれる
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■自然相手だから、計算しても仕方がない、いつどれだけ収穫できるかなんて、お天道さましか知らないよ。
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■去年はどれだけの種を買って、どれだけの時間をかけて、何ポット育苗して、何本畑に植えて、A品は何個とれて、いくらでいつ誰に販売したか?・・・はてさて。栽培している品目は50品目以上。やれやれ、データはどこだろう?
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こんなことをしていて、農業が儲からない、などと言っていたら、
お客様からぶんなぐられるだろう。
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昔、ワタミファームの重要なポストに就いていた人物に、
ワタミはもっと有機野菜を安くできる。経営努力をしないで、補助金をもらい、
文句ばかり言っている農業界はどうかしている、という趣旨の意見を聞いたことがある。
古くから農業をやっている人が聞いたら、怒り狂うこと間違いなしだろうけれど、
私もその通りだと思う。
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だが、実際、生産に(特に有機農業に)企業が参入してうまくいっている事例は極端に少ない。・・・ワタミも然り。
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無農薬栽培が儲からないのは、草取りに時間がかかり、虫や病気にやられるからだと生産者すらも思いこんでいるけれど、
本当は、たくさんの品目を作っているがゆえに、仕事がめちゃくちゃ複雑で、
どこに経費を無駄遣いする悪者が潜んでいるかわからないからだ。
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育苗もキャベツだけなら、悪者もすぐにみつかる。
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キャベツだけを同じ畑に作り続けると、キャベツを好む病原菌や虫が増えて、
次第に作りにくくなる。これを連作障害と呼ぶ。
だから有機農業の世界では、輪作といって、
多種多様な作物で畑をローテーションしていくやり方がスタンダードになっている。
輪作が無農薬農業の必要条件だとするならば、
輪作こそが無農薬農業経営のボトルネックとなっていることも事実だ。
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だとすると、・・・・・・・・・
輪作をしながら、ボトルネックを解消する方法、
輪作をしながら、人件費を減らす方法、
輪作をしながら、作業を明確単純化する方法、
輪作をしながら、予実比較を簡単にする方法、
輪作をしながら、データの入力、抽出を簡単、楽ちんにする方法、
輪作をしながら、自動化(機械化含め)を推進する方法・・・etc
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『問い』をうまく立てられたら、『答え』を見つけやすい。
お金をかけずとも、頭の使い方を変えれば、
まだまだ有機農業を改善する方法は見えてくる。
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・・・しかし、実際は、頭では方向性が分かっているつもりでも、
あっという間に時間が過ぎていき、お金も時間と同時に減っていき、
改善にはとにかく時間がかかる。
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輪作をしながら、という仮説がなかったら、
無農薬で、という大前提がなかったら、
この場所で、という大前提がなかったら、
農業で、という大前提がなかったら・・・
そう思わないことがないといったらウソになるだろう。
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だけど、これだけのびしろがあって、やりがいがある産業も少ないだろう。
自分とのたたかい、挑戦。
それだけが人生だ。